英ロンドンの裁判所に破産を申請した英旅行代理店トーマス・クック・グループを利用して国外を旅行中だったイギリス人の「帰国作戦」が本格化し、第一陣が23日、帰国した。
英政府は、同社の営業停止の影 響を受ける、国外を旅行中 の英国人 15万5000人を帰国させ るため、2週間にわたりチャーター機を運行するとしていた。
グラント・シャップス英運輸相は、今回の 危機的状況へ の対応は「これま でのところ順調」かつ「スムーズにいっている」と述べた。
しかし、一部の旅行客からは、長蛇の列で待たさ れるなど、空 港での混乱 をめぐって 不満の声 が上がっている。
9時間待ちも
リッキー・ヒューストンさんは、23日に搭乗する予定だっ たギリシャ・コルフ 島発イング ランド北東部ニューカッスル行きの便が9時間遅れたという。
「担当者に 同情する。彼らも何 も分からな い状態だと思うので。 私たちに最 新情報 を教えてくれ ていたのは、滞在先のホテルだった」
緊急治安閣僚会議(COBRA)に出席したシャッ プス運輸相は、「飛行機の遅延が想定される。私たちは当初予定されていた便の運行はしないが、今後2週間のうちにすべて を完了させ、帰国作 戦の現段階 を終了する」と述べた。
2万2000人の雇用に影響
創業178年の英旅行 代理店トーマス・クック・グループは今年8月 、最大株主の 中国投資 会社、復星国際(フォースン・グループ)から救済資金9 億ポンドを獲得していたものの、先週に なって大 手株主や 主要 取引先銀行が信用 条件として追加で2億ポンドの資金調 達を要求して いる と明らか にしていた。22日 まで救済 交渉を重ねていたが、成立せず、破産 申請に 至った。
トーマス・クックの破綻によって、イギリス国内9000人を含む世界2万2000人の雇用に影響が出る。
英民間航空局(CAA)は、平時で最大規模の帰還作戦「マッターホルン作戦」を開始。中央アメリカやトルコなど、国外にいるイギリス人15万人以上を帰国させるため、45のジェット機をチャーターした。
BBCのトム・バリッ ジ交通担当 編集委員は、23日にも約1万6000人の旅行 客が海外 から帰国す る予定 だったと伝えている。政府は そのうち 少なくとも1万4000人をチャーター機で23日中に帰国 させ たい考え。
マレーシアからチャーター機を確保
チャーター機の一部は、英航空会社 イージージェットやヴ ァージン・アト ランティック航空が提供。マレーシアから調達した旅客機も含まれる。
夢のディズニーランドが台無しに
中部ミルトン・キーンズ在住の、2人の幼い息子を持つリアン・ジョーンズさんは、休暇に向けて家族からプレゼントされていたトーマス・クックの旅行バウチャーの価値がなくなったことを知った。
「最悪な気分です。幼い息子 たちを海外で の初めての休暇 に連れて行く ために、過去2年 間、誕生日やクリ スマスには毎回トーマス・クックのバウチャーをとって おいた。ディズニーに行く予定だったのに。800ポンド(約10万円)分が貯まったので、来夏に2 人を初の海 外旅行に連れ て行くつもりだった。私は全 額を失い、息子たちは旅行には行けなくなってしまった」
ジョーンズさんがATOLに問い合 わせたところ 、バウチャ ーは保証 対象外だと告げられた。
「これで何もかもおしまい。また一から貯金を始めなけ ればなら なくなる。他に方法はないので。旅行に行くには、あともう2年待たなければならないでしょう」
バウチャーのプレゼントを提案したジョーンズさんの父親は、少し罪悪感を感じているという。
「父のせいではまったくない。すごくいいアイデアだったから」とジョーンズさんは述べた。
帰国作戦
トーマス・クックの破綻により、英国人15万人が影響を受 けているとされる。現在国外に いる同社の 利用者は最大で45万人で、その一部に影響が出ている。
トーマス・クックの主要市場であるドイツでは、複数の保険会社が、同社の破 綻に対応す るとしてい る。
英運輸省は、旅行者が当初の帰国日に「できるだけ 近い」日程で帰 国できるよ う手配 するという。
利用者は無料のチャーター機に搭乗、あ るいは別の航 空会社の 便を追加料金なしで予約す ることとなる。
しかし英運輸省は、「ごく一部」の利用客について、自分で帰国 便を手配し、航空券代を事 後請 求する必要が出てくるかもしれないとしている。
現在、トーマス・クックを通じたすべての予約がキャンセルされているが、一部利用客からは、十分な情報共有がなされていないとの声が上がっている。
CAAは、トーマス・クックのパックツ アーが宿 泊するホテルに対して、宿泊費用 は政府が航 空旅行信託基金(ATOL)の保証を使って負担すると連絡してい る。イギリス では欧州連合( EU)のパッケージ 旅行者保護方針にもとづき、パック旅行利用者の宿泊費と帰国費用は業 界の弁済保証金からなるATOLの保証対象となる。
すべての利用客は、ATOLあるいはクレジットカード会社や保険会社を通じて補償請求ができる。
破産経緯を調査
アンドレア・レッドソム、ビジネス相は、英政府の破産サービスに対し、トーマス・クックの破産に至るまでの状況に関する調査を簡略化(ファストトラック)するよう求めるという。
2014年以降、給与と ボーナスを合わせ、総額2000万ポンド(約27億円)受け取っていた同社幹部たちについても調 査が行わ れる予定。
トーマス・クック社は業績 悪化について、 トルコなどイギリ ス人に人気の海外 旅行先で 政情不安が 続いたり、今年 の夏に熱波 が続いたりしたこと、 あるいはブレ グジット(イギリスのEU離脱)に伴う不透明感から海外旅行を控える傾向が続いたことなどを理由に挙げている。

政府の対応
BBCの取材では、トーマス・クックは政府に2億5000万ドルの資金援助を要請していたが、政府はそれだけの公的資金を注入しても同社は数週間しかもたないと判断したという。
一方、シャ ップス英 運輸相はBBCラジオ4の番組「トゥ デイ」で、「非常に短い期間 運行を継続 させても、その後 は結局、利用 者を帰 国させなけ ればならない 事態に 陥っていたと考える」と反論。トーマス・クックの巨額の 負債や、大衆向け のビジ ネスモデルが、航空業 界で生き残れなかった理由だと述べた。
また、「マッターホル ン作戦」にかかる経費について、納税者が約1億ポンド(約130億円)を負担することになると付け加えた。
トーマス・クック従業員の今後は
英国 内のトーマス・クックの一 部店舗の従 業員は、同社経営 陣と面会済 みで、解雇されるだ ろうと告げられた。
同社が運行する航空便やエンジニア部門の従業員も解雇される見通し。一部従業員は同社に残るものの、具体的な人数はわかっていない。
国際事業はどうなる
インド、中国、ドイツ、北欧のトーマス・クック子会社は、法的観点から、イギリスの親会社から独立しており英破産管財人の管轄外とみなされているため、現時点では今後も通常通り取引を継続するという。
一方で、こうした子会社は、旅客機やITなどのサービスを親会社と共有している。取引を継続するには、親会社が今後数週間のうちに救済措置を締結する必要がある。

利用客はCAAの専用ウェブサイトから詳細を確認できる。今後48時間以内に英国への帰国を予定している人や宿泊先が見つからない人、あるいは特別な援助を必要とする人は、電話相談が可能。(イギリス国内からは0300 303 2800、海外からは+44 1753 330 330)