英ロンドン中心部で29日午後2時(日本時間同11時)ごろ、テムズ川にかかるロンドン橋のたもとで男が刃物で周囲に切りつけ、2人が死亡、3人が負傷した。周りにいた複数の一般人が男を取り押さえ、駆け付けた警官たちが男をその場で射殺した。男は別のテロ罪で有罪になり、保護観察中だったという。
ロンドン警視庁のニール・バス副総監によると、男性1人と女性1人が死亡し、女性2人と男性1人が負傷した。負傷者は今も病院で手当てを受けているという。警察はまだ被害者の氏名を発表していない。
英国民保健サービス(NHS)のサイモン・スティーヴンズ代表によると、負傷した3人のうち1人は重体だが安定しており、1人は安定した容体、1人は比較的軽傷だという。
ロンドン警視庁は30日未明、射殺された容疑者の名前をウスマン・カーン(28)と発表した。
バス副総監は声明を発表し、カーン容疑者が2012年にテロ関連の罪状で有罪になった後、2018年12月に仮釈放され保護観察中だったと明らかにした。捜査当局は、中部スタフォーズシャー在住だった容疑者宅で、捜索を進めているという。
英紙タイムズは、容疑者が電子タグを常時身につけ警察による行動監視に応じることを条件に釈放されたと伝えた。
カーン容疑者が「どのようにして今回の攻撃実行に至ったか、把握する必要がある」とバス副総監は述べ、「まだ捜査は初期段階にあるが、現時点では積極的に誰か関係者を探しているわけではない。ただし、ほかに関係者がいなかったか、一般市民に特段の脅威が継続してはいないか、早急に確認するよう務めている」と説明した。
ロンドン警視庁のクレシダ・ディック警視総監は記者会見で、事件は午後1時58分に橋の北側にある建物で始まったと説明。ケンブリッジ大学による元受刑者の社会復帰を支援する集会が開かれ、元受刑者や同大学の学生など数十人が参加していたという。
タイムズ紙によると、カーン容疑者もこの集会に出ていた。
ディック警視総監によると、容疑者はにせの自爆装置を身につけていた。最初の通報から5分以内に警官が現場に到着した。
ロンドン橋は2017年6月3日にも襲撃事件の現場となり、8人が死亡し多数が負傷した。
イギリスにおけるテロ脅威水準は、政府に諮問する独立調査機関によって11月4日の時点で、「重大」から「相当」に引き下げられていた。これは、襲撃発生の可能性が「かなりあり得る」から「あり得る」に和らいでいたことを意味する。
一般人が取り押さえ 刃物を奪い
事件の全容についてはまだ情報が錯綜しているが、ソーシャルメディアに投稿された複数の動画には、通行人がロンドン橋で容疑者を取り押さえている様子が映っている。
男を地面に組み伏せた集団から飛び出した別の男性が、橋の中心に向かって少し走ると、その手には大きな刃物が見える。容疑者から奪ったものと思われる。
動画ではその時点で警官が到着。男を抑えている人たちに離れるよう指示した上で、男に向かって発砲したように見える。
男がにせの自爆装置を身につけていたという警察の説明について、BBCのフランク・ガードナー安全保障担当編集委員は、こうした襲撃事件の実行犯がにせの自爆チョッキを着る理由は、周りをできるだけパニックさせることと、警察が確実に自分を射殺するようにするためだと説明する。一部の実行犯は、逮捕され裁判にかけられ刑務所で何年も過ごすよりは、その場で殉教者になった方が望ましいと考えるからだという。
目撃者の1人は、現場となった鮮魚販売業界団体の集会所「Fishmongers’ Hall」で、開かれていたイベントの参加者が壁にかかるイッカクの像から白い角をつかんで、建物の外に出ていた容疑者に立ち向かったと話した。
近くにいたツアーガイドの男性はBBCラジオに、自分は男を取り押さえて、頭を蹴るなどしたと話した。
事件を目撃したというジョージ・ロバーツさんは、容疑者から取り上げたとみられるナイフを手に容疑者から離れる男性について、「攻撃が始まった時は橋の反対側、僕たちの後ろを歩いていた。この人は車の合間をぬって走り、中央の柵を飛び越えて、ほかの人たちと一緒に襲撃犯を取り押さえようとした。僕たちは走って逃げたけど、彼が武器を奪ったみたいだ。なんて勇敢なんだ」とツイートした。
別のツイッター・ユーザーもこの男性について、実行犯から「ナイフを奪ったロンドン橋のこの勇敢な男性、すごい」と書いた。
「犯人を取り押さえた人たちはもっとすごい」とコメントする人もいた。